お茶の間 けいざい学  余話編(7)
 ケインズ政策──多くの国が赤字に

 財政を拡大させ、有効な需要を増加させることで失業を解消しようとしたケインズの考えにはわながありました。
 GDP(国内総生産)既に述べたように「不幸の大きさを表す数値」ともいえます。GDPの拡大によって失業を吸収しようとすれば、個人にも、社会にとっても無駄な仕事をさせてGDPを拡大させることになるからです。
 たとえばガスと水道、下水道と電線を道路に埋没させる工事を毎年別々に行えば、4年間にわたり仕事が確保できます。管の敷設工事の他に道路を掘ったり、埋めたりする工事が毎年出ますから、工事総額が大きくなって、GDPの増大と失業の解消には役立つことになります。
 四年間も交通規制される周囲の住民の不便は、GDP統計には計上されません。逆に、マイカーの代わりに乗った電車やバスの料金は、GDPの増大として計上されます。
 同じ場所を毎年掘り起こす担当者の後ろめたさ、むなしさ、悲しさなどもGDPには表示されません。
 ケインズ経済学は、不況と失業に苦しむ国々にとっては目の覚めるような抗生物質の発見でした。
 しかし同時にケインズ経済学がバイブルとなった時点で、ケインズの欠点も、各国の財政当局に副作用物質として吸収されて行ったのです。
 不況のたびに採用されたケインズ政策で、多くの国が財政赤字に悩むようになりました。多くの国が不要なコンクリートの塊や産業廃棄物を前にしてぼうぜんとしています。
 経済学はあくまでもある時代、ある場面で処方された抗生物質であって、異なった時代、異なった場面では劇薬に変わってしまう可能性があるのです。それなのに、40年前の抗生物質を平気で投与しようとするエコノミストがまだいます。
  怖いですね。

               (2004年10月30日「長野市民新聞」より」) 
 
      back  お茶の間けいざい学 目次  next