お茶の間 けいざい学  余話編(8)
 市場の原理──読みの深さで優劣

 碁や将棋はおやりになりますか。いつも勝てないライバルがいる人は、なぜ勝てないかを考えてみましょう。
 碁や将棋では読みの深さや論理的な思考力の差が、勝負を決めていると考えられます。
 このシリーズの第40回で「市場は時間と空間の間に存在する差を埋めようとしてダイナミックに動いている有機体」と述べました。すると良い市場とは他の市場より、「広い空間と長い時間」を取り込んだ市場ということになります。
 広い範囲から情報や財が集まり、古い資料や骨董品も並ぶ一方で、何十年先のマーケットを先取りしようとする企業家や実験的な開発品が参加してくる市場があったら、それは他の市場を圧倒してしまうはずです。この原理は国家間、民族間、企業間でも同じことなのではないでしょうか。
 すると勝負を決める最大の要素は「判断の基準を相手より広い空間においているか、長い時間のスパンで考えているか」ということになります。
 碁や将棋で言えば、盤上に展開する局面の隅々にまで目が届き、過去の展開が思い出せ、先の先まで推論できる人が勝つということになります。
 それは市場の優劣を決める原理と同じです。市場は人の営みが築き上げた芸術品ですから、その原理は人の営みが造る経営や経済、戦争や歴史のすべてに適用できる可能性が高いといえます。
 人の考える「正義」も長い歴史の検証の中では相対的に評価されることがあります。
 それでも広い世界を基準に、歴史的な観点から判断したことの方が正義として残る確率が高いとすると、「最後は正義が勝つ」という言い方は正しいことになります。
 信じられますか?

               (2004年11月6日「長野市民新聞」より」) 
 
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