お茶の間 けいざい学  余話編(11)
 宵越しの金──景気拡大の一役に

 「宵越しの金は持たねぇー」は江戸っ子の口ぐせでした。
 魚河岸の若衆から生まれた江戸っ子気質は粋の良さときっぷの良さが売り物でしたので、せこせこと節約したり小金をため込んだりすることを嫌ったことも確かでしょう。
 しかし宵越しの金を持てないほどの「その日暮らし」だったともいえます。
 ある日、彦左衛門から1両をもらった太助さんが「宵越しの金は持たねぇー」と隣の居酒屋で散財します。思わぬ1両を手にした居酒屋経営者の好助さんは翌日、勇んで待合に出掛け、なじみ芸者の金奴さんにチップを1両弾みます。1両をもらった金奴さんは翌日・・と繰り返していくことを考えてみましょう。
 本当に宵越し金を持たないと仮定すると、初めの1両小判は1日のうちに何人もの人の手を回転することになってしまいます。一応、小判を手にした人が翌日にはこれを使ってしまうと仮定すると、彦左衛門さんの渡した1両は1年で365人の人の手を移転することになります。
 これを社会全体でみると、年間で365両の所得と消費が発生したことになり、GDP(国内総生産)が365両拡大したといえます。 もし太助さんから1両を受け取った人が、節約家ばかりで、1カ月に1回しかお金を使わないとすると、最初の1両は1年で12両にしかなりません。1両の恩恵を受ける人は12人しか出ないことになります。
 宵越しの金を持たないとした江戸っ子の哲学が、いかに景気拡大と江戸庶民の相互扶助に役立っていたかが分かります。
 逆に、お金をジーと持っていることが1番得になるデフレ経済が、いかに非人間的な経済かも理解できるでしょう。

               (2004年11月27日「長野市民新聞」より」) 
 
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