お茶の間 けいざい学  余話編(14)
 巨人軍の選択──市場の限界の一つ

 クイズを一つ。巨人軍にいた松井が大リーグに移籍したことで、優勝を逃した巨人軍が被った損失が100億円だったとしたら、巨人軍は松井選手を100億円払っても引き止めるべきだったでしょうか?
 米国大リーグは、この設問に「イエス」と答え、選手の報酬を引き上げ続けてきました。
 アメリカンスタンダードが進む日本の企業でも、仕事のできるサラリーマンが同じ論理で、給料の引き上げを迫っています。
 実はこの答えは「イエス」ではありません。松井のほかに、清原が抜けても、高橋が抜けても、巨人軍が優勝を逃すとすると、清原と高橋が同じ要求をしてきた場合に、清原にも高橋にも100億円払わなくてはならなくなるからです。300億円払ったら赤字です。
 以前に触れた限界効用逓減の法則でお話したように、市場の価格はすべて、最後の一単位を追加したり、引いたりした場合に得られる効果で決まります。
 松井をトレードに出すか、引き止めるかで得られる損得の大きさが松井の価値を決めているのですが、それを実行すると清原も高橋も同じ要求をしてくる可能性の中で巨人軍のフロントは判断をしなくてはなりません。 同じジレンマには米国の真似をして、能力主義を採用した会社の人事担当者や上司が現在直面しているはずです。
 市場で形成される価格が常に、限界で追加される一単位の価値である限り、この設問に解答はないのです。市場の限界の一つといえます。
 結局、巨人軍は松井を手離して、優勝を見送るしか方法がなかったことになります。変ですね。でも、経済をよく観察すると、この矛盾は至る所で起きているのです。
 考えてみましょう。

               (2004年12月18日「長野市民新聞」より」) 
 
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