お茶の間 けいざい学  余話編(15)
 サービス業の道行き──時間と場所を共有

 近松門左衛門の心中物のクライマックスは、愛する二人が死出の旅をする「道行き」です。二人は手を握り合い、全く同じ世界を共有しています。
 サービス産業も実は、生産者と消費者が道行きする産業です。そして豊さが到来した現代社会では、消費の約6割がサービスとなっています。
 女性が美しくなりたいと思う気持ちを満足させるために化粧品を造る会社は、製造業です。化粧品を造る工場と化粧品を購入する女性とが、異なる場所、異なる時間にいても売買は成立可能です。
 それに対し、美容院はサービス産業です。女性を美しくするサービスを生産する美容師と、美しくなりたい消費者である女性が「同じ時間、同じ場所」にいないと、生産と消費は完結しません。
 同じことは風邪薬を造る製薬会社と、風邪を直したい消費者の間でも成立し、風邪を病院で直す場合は患者と医師が同じ空間、同じ時間を共有します。
 従ってサービス業とは、サービスを購入する消費者をサービスが行われる所まで移動させる必要が出るのです。そんな消費が6割を占める社会にわれわれは今、生きているのです。
 道路網が整備され、新幹線が走る社会の到来は人の移動時間を節約させ、経済に占めるサービスの割合をさらに高めます。少ない時間でサービスを多く受けたい消費者は、サービス産業の多い都市部にますます移動します。
 実は生産の集中から都市人口が急増した産業革命後の社会とは、まったく正反対の理由で、21世紀は人口が都市に集中するでしょう。
文化的な生活を希望する人々が消費の必要性から都市に集中する時代が来ると考えられるからです。
 サービス社会の到来を前提にすれば、危機が叫ばれる地方都市の市街地空洞化問題は既に解決が見えているといえるのかもしれません。

               (2004年12月25日「長野市民新聞」より」) 
 
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