お茶の間 けいざい学  余話編(17)
 家庭内労働──所得税の対象にも

 肩たたきは子供にされれば、目が細り、上司にされれば目が据わるものですが、さて、子供が母の日に贈る「肩たたき券」にはなぜ印紙税が掛からないのでしょうか。
1988(昭和63)年までは商品券にも印紙税が掛かりました。また、父の肩をたたいてお小遣いをもらった息子はなぜ確定申告をしなくても良いのでしょうか。家庭内のことだからでしょうか。それとも金額が少額だからでしょうか。
もし、肩たたきの謝礼に父が息子に500万円払えば、贈与税が掛かります。ではさらに、毎日早朝から働いてくれる妻の姿に感激したお父さんが、家庭内労働の価値を認め、妻に毎月30万円払うことにしたら、妻は所得税を払うべきでしょうか。
この場合は所得税の対象になる可能性があり、日本のGDP(国内総生産)は確実に拡大することになるでしょう。
また、従業員100名の会社が解散し、全員が養子縁組をして、家族として自給自足の生活を始めたとしたらどうでしょうか。100名の従業員は全員が所得税を払う義務から解放されてしまいます。
税金の対象にならない経済活動はGDPに計上されないのです。同じ意味で物々交換で行われる取引は税の対象となりにくく、GDPとしても把握されづらくなります。
所得が申告されない麻薬の地下取引や売春などもGDPには入りません。
 われわれが日ごろ漠然と経済として考えているものは、取引に通貨が使われ、帳簿が記帳され、所得が国家によって把握されているものに限られているといってよいでしょう。
本当の豊かさは息子の肩たたきや、妻のほほ笑み、山で収穫された山菜の味など、金銭に換算できないものが多いのです。でも、現代の人々は価格が付く経済こそが、豊かさの指針と思い続けています。
不思議ですね。

               (2005年1月15日「長野市民新聞」より」) 
 
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