お茶の間 けいざい学  余話編(18)
 吉田松陰──明治維新もたらす

 現代を生きるわれわれは、吉田松陰の恩恵を受けています。松陰は工業力、経済力、軍事力で西欧と圧倒的な格差ができてしまった幕末日本が西欧列強の植民地にならずに自立できる道を構想し、日本に明治維新をもたらした重要な人物です。
 19世紀のアジアで日本だけが唯一近代化を成し遂げ、国の独立を守れたのは松陰の構想と松陰の育てた人材による点が大きかったことは、多くの歴史家が認めています。
 この構想は日本にとってはエジソンの電灯、ベルの電話の発明よりも大きなメリットをもたらしたといえますが、わたしたちは松陰に一銭もパテント(特許)料を払っていません。偉大な構想を残し、黙って刑場の露と消えました。
 現代ではパソコンとインターネットの利便さを享受する人が日本にたくさんいます。これを享受する人は全員がこの構想を考えたビル・ゲイツという米国人に大枚のソフト料を払います。今、ビル・ゲイツは空前のお金持です。
 両者が人類の遺産ともいうべき大きな価値を世の中に提供したのは同じです。でも一方は日本の人々に大きな価値を残しながらも刑死し、一方は繰り返しそのアイデア料を請求し続けて、世界一の富豪になりました。
 ビル・ゲイツが悪いのではありません。経済を重視する世界では、ソフトの価値は当然に売買の対象になります。松陰は、代金をわれわれに請求することを放棄、というより請求することなど夢にも思わずに死んでいったのです。
 経済学を考える人は、いつもこの意味に帰るべきです。経済は人が人として生きて行く上では、ほんの一部分でかありません。代金を請求しなかった多くの先人たちの遺産の上で、わたしたちは日々の生活を営んでいるのです。

               (2005年1月22日「長野市民新聞」より」) 
 
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