お茶の間 けいざい学  余話編(20) 最終回
 経済学のこれから──人類共通の財 増加

 やむことなく進化する科学技術と、揺らぐ人の心を対象とする学問の宿命で、経済学は歴史と共に揺れてきました。
 ピタゴラスの定理のように永遠に不変な真理を提示できる学問ではないのです。
 金(きん)だけが通貨だった時代には、経済の規模は世界に存在する金の総量に規制されました。
 人の心が変化し、印刷された紙でも通貨と認めるようになると、通貨は無限に印刷できる物になり、世界の経済は際限なく拡大する可能性を得ました。同時に止まらないインフレの危険性も手にしてしまいました。
 科学が進化し、情報の伝達速度が変わると、全国各地の米の豊作・不作が瞬時に分かり、江戸時代に機能した大阪堂島の米相場は意味を失いました。
 同じ意味で世界の主要なエネルギーが薪から水力、石炭、石油、原子力へと変わるにつれて、経済学の意味が変わるのです。ロボットが働く時代が始まり、マルクスが考えた労働価値説は意味を失いつつあります。
 経済学は時代とともに生きている学問です。20年前の黄色くなったノートを講義して済む学問ではないのです。
 このシリーズを読まれて、経済学を勉強したいと思った若い皆さんはぜひ、21世紀の経済学に挑戦してみてください。
 地球の未来や人類の未来、貴重な自然や人々の生きがいなど、従来の市場原理では拾い上げられない価値が人々の心の中に育っています。
これからは、価値の大きさを計量できない財や、個人が購入できる段階まで分割できない人類共通の財が増えてきています。
 これらに解答を与える経済学をぜひ生み出してください。それが「旬の学問・経済学」の醍醐味なのです。
 長い間のご購読、本当にありがとうござました。。

               (2005年1月29日「長野市民新聞」より」) 
 
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