ストレス解消のメカニズム
交感神経の緊張が高まると涙でる。
涙によってストレスが解消するメカニズム
感動の涙を流すときに脳がどのような変化をするのか
人が感動の涙を流すとき、いったい脳の中では何が起きているのでしょう。私たちは、それを知るために、1つの実験を実行しました。。感動的な映画を見てもらい、その人が感動の涙を流すときに脳がどのような変化を見せるのか、主に血流量の変化を中心に観察するという実験です。前にも述べましたが、血流が多くなった場所は、それだけ活発に働いているといえるのです。
感動の涙を流すには、ある程度時間がかかります。どんなに感動的な映画でも、いきなりクライマックスだけ見せられても人は感動できません。感動の涙を流すには、共感に至るプロセスを積み上げることがどうしても必要なのです。
これは別の言い方をすれば、少しずつストレスを受け入れ、交感神経を緊張させなければ「泣きたい」という状態にならないということです。このプロセスを積み上げている間は、前頭前野の血流に大きな変化は見られません。ところが、涙を流す1~2分ぐらい前になると、共感脳に緩やかな血流の増加が見られ始めます。
これは涙に至る「予兆期」といえるもので、このとき映画を見ている人は、感動が少しずつこみ上げてきて、胸に詰まるような感覚を体感しています。
そして泣く直前、共感脳の血量に極端な上昇が生じます。この急上昇は十秒ほど続きますが、その間に映画を見ている人は泣き出します。その後、血流は再び予兆期と同程度まで下がりますが、このときもまだ被験者は泣き続けています。そして、やはり1分間ほど、このやや多い状態が続いた後、通常の血流量に戻ります。
最初の増量期を「号泣予兆期」、極端な急上昇期を「号泣トリガー期」、そしてその後の増量期を「号泣継続期」と分けています。
感動の涙を流すとき、共感脳は激しく興奮します。その興奮が脳全体に伝わり、それまでの交感神経の緊張状態(=ストレス状態)から、副交感神経興奮状態ヘスイッだえきチングされます。そして、このスイッチングの情報が脳幹の上唾液核(副交感神経の始点)へ伝わり、「涙」が出るのではないかと思います。
目に異物が入ったときに流れる「反射の涙」は、目の角膜にある三叉神経を経て脳幹の上唾液核で中継され、顔面の副交感神経を刺激し、涙が流れるという仕組みになっています。そのため、目に麻酔薬を投与すると反射の涙は流れなくなります。
ところが、麻酔薬が効いている間でも、「情動の涙」は流れるのです。ということは、「角膜→三叉神経→上唾液核」という反射の涙の経路とは別に、上唾液核に涙を出すよう信号を出している経路が脳にはあるということです。
そして、感動の涙の場合、その起点として働いているのが、共感脳だと考えています。
そう考えれば、共感脳が大きく興奮したときにこそ、号泣に至るということも納得がいきます。
起点となる共感脳の興奮が激しければ刺激も強くなるので、涙も多く号泣状態に至り、反対に共感脳の興奮が弱ければ、伝わる刺激も少なく、涙の出も少なくなる、というわけです。
何人もの人に映画を見てもらい調べていると、中には「うるうる」と目を潤ませても「泣く」には至らない人もいます。そういう人のデータを見ると、号泣予兆期はあるのですが、号泣トリガーは現れずに終わっています。トリガーがははっきりと出ないということは、共感脳があまり興奮していないということです。
やはり、共感脳の興奮が、涙に結びついているといえそうです。